スペシャル・クローズアップ 大迫 傑(『月刊陸上競技』2018年12月号誌面転載記事)

時代は2時間5分台へ!! 日本最強ランナーが「マラソン日本新」を語る

大迫 傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)

 大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)が10月7日のシカゴ・マラソンで2時間5分50秒の日本新記録を樹立。今年2月の東京マラソンで設楽悠太(Honda)がマークした記録を21秒塗り替え、日本人初の2時間5分台に突入した。米国から帰国した新・日本記録保持者はメディア対応や各種イベントに参加するなど多忙な日々を過ごしたが、本誌は10月10日(合同取材)と10月19日(単独取材)の2度にわたり、大迫への取材機会を獲得。今もっとも陸上界で注目を集める男にさまざまな質問をぶつけてみた。

Q.シカゴ・マラソンのウエアとシューズはどうやって決めたのか?

 シカゴ・マラソンのスタート時は気温13度、湿度95%、風速4m。雨上がりのコンディションは、大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)にとって「非常に走りやすい気候」だったという。昨年4月のボストン、同年12月の福岡国際と同じように白のキャップ(帽子)をかぶり、大迫はスタートを切った。2人のペースメーカーを含めてトップ集団にはオレンジ色のシューズが目立つ。大迫も彼らと同じ「ナイキ ズームヴェイパーフライ 4% フライニット」を履いている。世界のメジャーレースを席巻している厚底シューズの最新モデルが大迫の走りをサポートした。

「キャップは『なんとなく』ですね。練習では日差しが強かったりするので、かぶることが多いですし、これまでのレースも暑かったり、雨が降ったりで、かぶりました。ゲン担ぎというよりは、キャップに悪いイメージはないですし、今回も気象条件を考えると、かぶったほうがいいんじゃないかという考えです。また、雨も降っていたので、ランパンだとビショビショになるかなと思って、そこまで気になるわけではないんですけど、コンプレッション(着圧)になっていますし、今回はタイツを選びました。
 シューズについても過去2回と同じでヴェイパーフライ 4%です。最初に履いた時は、それまで薄底シューズを履いてきたので、戸惑いがあったというか、こんなにソールが厚くて走れるのかなという疑問があったんです。でも、履いてみると地面からの反発をすごく感じますし、クッション性があるので、脚を終盤までセーブできる感覚もある。これからも履いていきたいと思えるシューズです。しかも、新モデルはアッパー部分がフライニットになり、フィット感が高まりました。シューズの中で足が動かなくなったので、マメ防止にもつながっています」

Q.レース中、集団の中ではどんなことを考えていたのか?

 高速コースとして知られるシカゴは久しぶりにペースメーカーが復活した。トラック種目で五輪・世界選手権を合わせて10個の金メダルを獲得している長距離界のスーパースターであるモハメド・ファラー(英国)は「61分半前後」で、前年覇者のゲーレン・ラップ(米国)は「63分前後」でハーフを通過したいと要望。その中間の1時間2分00秒~1時間2分30秒くらいのペースメーカーも予定されていたという。しかし、ペースは安定しなかった。大迫の5kmごとのスプリットタイムを見ると、ペースのバラつきがよくわかる。最初の5kmは14分53秒だったが、次の5kmは15分19秒にペースダウン。10~20kmは14分55秒、14分44秒と上がっていったと思いきや、20~25kmの5kmは15分28秒まで落ち込んだ。レース中、大迫はどんなことを考えていたのだろうか。

「調子も良かったので、(中間点が)61分30秒を切らなければ大丈夫だろう、という話をコーチとしていました。ただ、ちょっとペースが安定しませんでしたね。ペースメーカーについていた人たちと、ちょっと間をあけて追っていく人たちがいて、結構頻繁に離れたり、ついたりしていましたから。僕はなるべくエネルギーを使わないようにしていましたが、(余計な)力を使った感じはありました。
 集団の中で走っていましたし、前にタイマー(電光掲示板)があったので、それほどタイムは気にしていませんでした。ペースの上げ下げはあったんですけど、きつくなる時と楽になる時がある。その繰り返しがあっただけで、そういうことは練習でもよくあることなので、違和感がなかったというか、普段通りに対応できました。とにかく集団の中でうまくペースをコントロールして、リラックスした走りを心がけていました。
 中間点の通過は1時間3分04秒と予定より遅かったのですが、もともとそんなにタイムは意識していませんでしたし、頭の片隅で『ゴールタイムは2時間6分半から7分ぐらいになるのかな』と思いました。前半はそんなに脚が動いていた感じがなかったんですけど、逆にそれが後半に脚を残すためには良かったのかなと思います」

Q.ペースメーカーがいなくなってからはどんなことを意識したのか?

 ペースメーカーがいなくなってからレースが一気に動き出す。25~30kmの5kmは14分27秒。直前の5kmと比べてタイムが1分以上も跳ね上がった。30kmは先頭が1時間29分43秒で、トップ集団は9人。 大迫は少し遅れる場面があったものの、落ち着いて先頭グループに追いつき、30~35kmの5kmを14分31秒でカバー。次の5kmも14分42秒でまとめるが、ファラーのスパートには対応できない。加えて、終盤は小雨が降り、それまで静かにしていた風がランナーたちに向かってきた。途中、両脇腹を押さえるシーンを見せながらも、大迫は3位争いを繰り広げながら、40kmを1時間58分59秒で通過。日本記録(2時間6分11秒)の更新だけでなく、2時間5分台の可能性が高まっていた。

「終盤は自分を励ましながら、目先の1マイル、1マイルに集中しました。前のペースがガツンと上がった時に少し遅れましたが、ゲーレンやファラーが詰めようとしたので、それを利用させてもらうなど、うまく他の選手を使って、なるべくエネルギーを消費しないように走りました。
 お腹が痛くなり始めていたので、肋骨を下げるじゃないですけど、少し対処した感じです。それほど鋭い痛みにはならなかったので、何とか持ちこたえることができました。一番きつかったのは、ファラーがラスト3kmくらいで上げた時ですね。
 記録が見えてきたので、3位争いの中で勝つというよりは、タイムを意識しました。あと1マイルというところで2時間1分くらいだったので、日本記録は狙えるぞ、と思いましたね。ただ、向かい風が強くなっていたので、少しでも気を抜くと脚をつるリスクも出てくる。身体の状態とタイムを見ながら必死に走りました。福岡と同様、ゴール前に上り坂があって、ラストスパートとはなりませんでしたけど、最後までしっかりと走り切ることができたと思います」

※大迫選手が実施しているマラソン・トレーニングの内容や考え方、オレゴン・プロジェクトでの成長の要因などが続きます
 この続きは2018年11月14日発売の『月刊陸上競技』12月号をご覧ください