ジャカルタ・アジア大会総特集(『月刊陸上競技』2018年10月号誌面転載記事)

日本男子4継、20年ぶり金メダル!!
〝鬼門〟のアジア大会でついに王座奪還

序盤から他国を圧倒 地元インドネシアが中国抑えて2位

20年ぶりのアジア王者に輝いた――。男子4×100mリレーは日本が38秒16で制し、1998年バンコク大会以来、5大会ぶりの金メダルを獲得した。
オーダーは、1走が大会2日目の100mに10秒00(+0.8)の自己タイ記録で銅メダルを獲得した山縣亮太(セイコー)、2走は昨年ブレイクした多田修平(関学大)、3走は100m9秒98の日本記録保持者・桐生祥秀(日本生命)、4走は100m準決勝落ちの雪辱を期すケンブリッジ飛鳥(Nike)。1、3、4走は銀メダルを獲得した2年前のリオ五輪と同じだが、2走にはリオ後に〝不動〟だった飯塚翔太(ミズノ)が4×400mリレーへ回り、銅メダルを獲得した昨年のロンドン世界選手権で1走を務めた多田が抜てきされた。
東京五輪へ向けて日本陸連は、4継だけでなく2004年アテネ五輪4位などの実績があるマイルリレーについても、「世界と戦える種目」(土江寛裕オリンピック強化コーチ)に位置づけている。そのために土江コーチは「スピードのある選手の存在が不可欠」との考えの下、今大会は200mの選手を起用する方針を示していた。飯塚のマイル出場もその方針に沿ったものだ。
陸上の最終日(8月30日)に行われた決勝で、5レーンに入った日本。ライバルとなる4レーンの中国は、100mを大会新の9秒92(+0.8)で制した蘇炳添をいつも通り3走に据えたが、6月に9秒97をマークしたもう1人のエース・謝震業は右足首を痛めて今大会を欠場しており、戦力は大幅にダウンしている。また、3レーンには地元のインドネシア。2走を務めるのは、7月中旬のU20世界選手権100mでアジア勢として初めて金メダルを獲得、今大会でも7位と健闘した18歳のラル・ムハンマド・ゾーリ。7万6000人余り収容のスタンドはかなりの空席があるものの、スタート前から盛り上がる。「インドネシア」コールが鳴り響いた。
号砲が鳴ると、山縣が「攻める姿勢」で他を圧倒。2走・多田とのバトンパスは詰まったが、それが気にならないほど大きくリードした。今季の多田は、世界選手権で準決勝に進むなどした昨年ほどの勢いがなく、日本選手権100mは5位。個人種目の代表入りを逃し、リレー要員としての出場だった。中盤ではさらにチームのアドバンテージを作るが、「外のレーンに詰められた」と6レーンを走る台湾の200m銀メダリスト・楊俊瀚や、インドネシアのゾーリに終盤でやや追い上げられ、バトンは3走の桐生へ。
「(多田との)バトンパスは詰まったけど、加速の部分はうまく走れました」という桐生も日本選手権100mは3位に敗れ、4継のみの出場。「(疲労のある)100mに出た2人の分もしっかり走ろう」と抜群のコーナー走で、そのままトップでアンカーのケンブリッジへバトンを渡す。後方では中国の蘇炳添が順位を上げようとするが、日本には届かず、むしろ地元のインドネシアが上位で食い下がる。
100mで「悔しい思い」をしたケンブリッジは、動きが噛み合わなかった個人種目とは一変して伸びやかな走り。他を大きく引き離し、そのまま真っ先にフィニッシュラインを駆け抜けた。

アジア王者の先、「世界一」を見据えて

レースを終えてフィニッシュ付近に集まった4人。インドネシアがリオ五輪4位の中国に先着する2位を占め、大歓声がスタジアムを覆う中、日本のカルテットは充実した表情を見せた。
近年、国際大会で実績を重ねてきた日本の男子4継。2008年北京五輪の銅メダル(後に上位国の失格で2位に繰り上がり)から、五輪と世界選手権合わせて計3つのメダルを手にしたが、この間にアジア王者には届かなかった。直近の優勝が20年前のバンコク大会。100m(準決勝)で10秒00の日本新を打ち立てた伊東浩司(富士通/現・甲南大女子顧問)がアンカーを務めた時まで遡る。
選手は4人とも「金メダルはうれしい」と声をそろえた。しかし、どこか手放しで喜べない。「37秒台を出せず少し残念」とケンブリッジ。リオで出した日本記録(37秒60)の更新は別として、前回の仁川大会で中国が出した37秒99の大会記録には届かなかった。
前日の予選を38秒20で1着通過した後、桐生は「大会記録で金メダルを取りたい」と話していた。決勝では、山縣からバトンを受け取る多田は足長を半足分伸ばして30.5歩に、多田を待つ桐生も足長自体は予選の29.5歩と一緒だったが「(より)思いっきり出る」つもりで臨んだ。それでも、「全区間詰まりました」と山縣は振り返った。
土江コーチは「各箇所とも余裕のあるバトンパスとなってしまいました。大会記録はちょっともったいない」と言いつつも、「きちんと勝てたのは大きい。アジア大会は〝鬼門〟というか、そういったところはあったのですが、金メダルを取れたというのは良かったです」と安堵の表情だった。
しかし、久々のアジア大会優勝も、目標に掲げる東京五輪の金メダルへの通過点に過ぎない。土江コーチは「37秒50を切らなくちゃいけない。そうなった時に何が求められるかというと、個人のパフォーマンスが非常に重要」と言う。さらに、「(日本では100m)9秒台は桐生しかいませんが、中国の蘇炳添選手レベルが複数人出てきてくれないと難しい。そのレベルのメンバーでリレーを組んでいくことが理想」と、さらなる日本人の9秒台出現を期待した。
今大会の4継でバトンをつないだ4人や、飯塚のほかに、200mで金メダルを取った小池祐貴(ANA)、昨年の世界選手権200m7位のサニブラウン・アブデル・ハキーム(フロリダ大)といったタレントもいる。あとは個々の能力をどこまで高められるか。東京五輪まであと2年を切った。昨年秋の桐生のような、大きな動きを見せてほしい。
(井上 敦)
※ジャカルタ・アジア大会については2018年9月14日発売の『月刊陸上競技』10月号で詳しく特集しています